2月16日、富山技術交流センターにおいて開催された「中小企業国際化セミナー」の中から大久保勲氏(株式会社 東京リサーチインターナショナル研究理事)のご講演の内容を中国のWTO加盟に絞ってご紹介いたします。
 
 中国のWTO加盟は時間の問題になってきた。そうするとWTO加盟でどういうことになるのか。そして、皆さんの企業にとってどういうビジネスチャンスがあるのかということが、やはり一番大きな問題ではないかと思うのです。
 中国経済というのは問題点や矛盾点がいっぱいあるわけです。そういうことを気にすると中国とのビジネスなんてやっていられないということになるのです。でもやはりここで中国のWTO加盟ということが時間の問題になってくると、ほかの国がどうなのかということが非常に気になってくるのです。
 去年、日本監査役協会という、大手企業監査役の方がお集まりのところで中国の話をしたのです。大手商社は皆中国へ行って子会社をいっぱい作りました。ある会社は200社ぐらい作った。私は98年3月まで北京にいましたので、そういう方とも付き合いがあったのですが、そのころは何社作ったと競争をしていました。でも終わりの方になったら、何社つぶすという競争をしているのです。うちは何社撤退すると。これは連結決算も関係があるのです。赤字会社をいっぱいぶら下げていたらやはり大変なので、中国に会社を作るときはすぐ儲からなくていいよといって作ったのですが、いざとなると3年赤字だったらもうやめた。いくつつぶすかという話になってきている。
   しかし、私はWTO加盟の米中交渉を見て、アメリカというのは多国籍企業を中心に、かなり長い先を見て中国と非常に厳しい交渉をやって、そしてアメリカ企業の中国におけるビジネスを増やそうとしている。例えば、電子商取引はまだまだ中国では少ないです。しかしアメリカの専門家の見方をすれば、今の中国の電子商取引は、将来の可能性を考えれば大海の一滴にすぎないといって、非常に将来の発展性を考えて、アメリカ企業の将来のビジネスをとろうとしているのです。それに対して、どうも日本の民間もお役所も、冷静にビジネスの対象として中国を見ているかどうかということを少し感じているところです。
   皆さんに中国について画期的な見方ではなく、冷静に中国という相手をビジネスとしてどう見たらいいかということについて、何かの考えを持っていただけたらいいかと考えています。
 WTO加盟における貿易面の影響ですが、WTOというのは貿易の自由化を促進するのですから、結論とすれば貿易は拡大します。しかし、世界135か国がWTOのメンバーで、メンバーのうち8割は発展途上国です。WTOに入ったからといって破綻した国はないのですが、中国ではWTOに入るか入らないかということで大変な議論になっているのです。今年1月中旬から、さらに人民日報を中心にキャンペーンをやって、WTOに加盟する意義を国民によく説明しているのですが、WTOに入ったからといって、すぐ中国は自由貿易をするということではないのです。
 自らの発展状況と競争力に基づいて徐々に自由化する。それからもしダンピング等があれば、反ダンピングということで課税することができる。それから市場開放というのは合理的な保護を放棄することでは決してないのです。もし国際収支に赤字が生じたということになれば、輸入制限ができるということをいっているわけです。実際にWTOの規定にそういうことがあるから、発展途上国がWTOに加盟をしても、そういう国がつぶれるわけではないのです。中国がWTOに加盟したからといって、何でもどんどん中国に輸出できるということではなくて、だんだんなのです。
 ただ確実なのは、関税が下がるということです。今、名目税率は関税を平均すると17%ぐらいなのですが、2005年には平均で10%まで下げるということになっており、平均で見ても7%は確実に下がる。自動車も80~100%課税されているのが、2006年までに25%にまで下がる。それでは中国の自動車企業は大変ではないかと考えられますが、確かに大変なのです。でも、80%ぐらいだった関税が25%に下がるとどういう影響があるかというと、CIF価格で中国に行った自動車を実際に国内売りするときは、中国の国内の税金や手続きの費用等、いろいろなものが掛かって、外国中級乗用車の関税の、国内販売価格に占める比率は3割弱だといいます。それも何年かかけて関税は下がっていくわけですから、輸入車価格はそんなに下がらない。下がっても年間最高10%で自動車はそんなに急に下がるわけではありません。それに国内で生産した車も、値下げ競争はしないということでやっていますので、そんなに下がらない。買い控えがないように、数年も待っていないで買いなさいという宣伝をしているわけです。そういうことで、急激な影響はないということです。
 しかし、そういう中で中国とのビジネス機会というのは、私は増えてくると思います。中国というのは発展途上国だから、中国の輸出品というのは一次産品が多いのかと考えたら、だいぶ違うのです。機械、電機、船舶とか情報機器も家庭電器も全部入るのですが、そういうものの比率がどんどん高くなって、輸出が4割近くなってきた。
 私は去年の12月に広東省の東莞市というところに呼ばれて、講演をしてきたのです。何で広東でそういうことをやったかというと、進出した日系企業にサービスするために、日系企業を集めて投資環境の説明と外国人に中国のことについて説明させたのです。「お前は中国の良いことだけを言え」とかという要求は一切なしで、私は言いたいように中国の問題点を言ってお金をもらってきたのです。
 おもしろかったのは、私は中国への投資は落ち込んでいるという頭で行ったのですが、南の方というのは全く違うのです。深 は人件費が高くなったから、そのすぐ隣の東莞市は深 から広州に行く途中ですが、ものすごいです。日経新聞に日本経済研究センターというのがあって今年の初めにアジアの2020年の予測が出たのですが、中国の華南地方はアジアの生産基地になると言われています。アジアの発展がIT関連とかで生産基地になるという見方なのです。
 農地だったところが工場でいっぱいになっていまして、香港空港から東莞まで高速道路1本で行くことができる。私は東莞市から呼ばれたのですが、東莞市政府の車が香港空港に来て、香港空港から東莞市まで、車に乗って通関もしてまっすぐに行くことができました。香港は、輸送の基地としても非常に発展していて、コンテナ取扱量でもシンガポールに次いで第2位です。華南には人がいないではないかというのですけども、戸籍を持っているのは150万人、だけど地方から来ているのは200万人とも300万人とも言われています。それは3年ぐらいで帰る人達で、安い賃金で雇える。華南ではこれから、特にパソコンの部品関連とかがものすごく進出して、どんどん発展していくと思います。
 そういうことで中国との貿易が発展していく可能性があるわけですが、では中国についてそんなに楽観しているかというと、これだけ厳しい世の中でWTOに加盟したからといって、「はい、どうぞ」とマーケットを中国が差し出してくれるなどということはありえません。繊維だって、2009年になってやっと制限がとけるのだからという慎重な見方はあるのですが、WTO加盟135か国の世界貿易に占めるシェアは9割です。それから中国の対外貿易のうちでWTO加盟国と取引しているのも、中国の全取引の約9割だということなのです。ですからやはり、WTO加盟は中国にとって、また外国にとっても、中国との貿易取引が確実に拡大する機会であると思います。
 では、投資ではどうなるかということなのですが、中国に投資して儲かるのかということですが、大体のところが損をしているとか、儲かっているところは黙っていて言わないとか、いろいろいわれているのですが、客観的に見て中国の投資環境というと、問題なのは透明度が低いこと、政策がよく変わること等、いろいろ問題があるのです。
 収益予測をしてもそのとおり儲かるかどうかわからない、急に新しい税金がかかるようになるとか、そういう問題もあるわけです。しかし、WTO加盟ということは、同じルールで世界の加盟国がゲームをやろうということと同じことなのです。同じルールでやろうということですから、中国だけ同じルールを守らないでゲームに参加するということはできないわけです。
 この間、広東国際信託投資公司の破綻問題に関連して、信託投資公司を訴えることが裁判所から拒否されるという通達が出ているとありましたが、中国では裁判で判決があってもそれが執行される度合いが非常に低い。これは事実なのです。日本の最高裁判所にあたる最高法院、人民法院の統計でも92万何千件かは執行されていないということなのです。
 ですから、裁判所に訴えて結果が出てもそのとおりにならない。大体、そういうところをあてにしていたらビジネスできないということで、非常に悲観的な見方もあるわけですが、WTOに加盟していたら、すぐには解決しないでしょうけれども、そういう問題も含めて、やはりWTO加盟は、解決を促進することになると思います。
 それから、中国との取引はというと、それぞれの時代でポイントが違います。70年代というと貿易取引だけ。60年代の終わりから70年代の初めというのは日中貿易決済をいかに円滑にするかというのが問題だったわけです。それが80年代の初めになると、中国が金を借りたいということになってお金がどんどん出されますが、その頃はあまり投資は進んでいなかったのです。90年代、天安門事件が終わって、小平の南巡講話というのがあって、そのあと投資が増えたのですが、それでも合弁という形式が多かったのです。それが98年になると、件数で独資が合弁を上回ったのです。WTOに加盟すると、合弁はもっと減るのではないかという見方があります。なぜ中国で合弁にしたかというと、合弁にしないと中国でのビジネスができない。いろんな制約があって合弁という形式を取らざるを得なかった。でも合弁で中国側の人はあまり働かないのに、お金ばかりたくさん取られておもしろくないということも実際にはあって、だんだん独資が増えてきた。これから、さらに独資が増えるのではないかと思われます。投資環境がだんだん良くなってくると、何も合弁相手などいらないということになってくる。それから、多国籍企業が中国に進出する度合いが増えています。多国籍企業は、何も中国のどこかと合弁しなくても自分でやっていけばいいということです。逆に中国の企業もレベルアップしてきているので、外国のあまり力の大きくない企業とだったら手を組む必要などないという、中国側の変化もあるので独資が増えました。
 それから次の問題で、業界別に見るとどういうことがあるかということです。中国でインターネットが発展しているといっても、あまり実感がわかないかと思うのですが、アメリカはよく調べていて、中国ではインターネットがこれからものすごく発展するとみています。実際に99年末でインターネットの利用者は890万人と出ていて、2000年の終わりには2000万人に、そして2005年には8000万人になるのでないかといわれています。
 日本のパソコンの出荷量は、去年で900万~1000万台。中国の需要は同じレベルまできてしまっているのです。中国の人口は大体13億人です。人が多いということがやはり経済発展の障害になっていたのですが、携帯電話の発展がものすごくて、中国の情報産業省では10年で携帯電話は少なくとも2億前後になるだろうと予測しています。固定電話も2億~3億いくだろうということです。今、議論されているのは電子商取引でやった取引について、関税をどうするかというような問題がもう起きていて、そういうことも詰めていくことになっているわけです。
 中国がなぜ貧乏だったかというと、今でもそうなのですが、もし、人口が12億人とすると12億のうち9億の人がまだ農村にいるわけです。そして、やはり第1次産業に従事している人が就業人口の5割はいるわけです。特に第3次産業は、2割台で遅れているわけです。第1次産業に従事している人は、中国の場合、1人当たりのその国のGNPに対する貢献度は最も低いわけです。そうすると第1次産業の人をできるだけ減らして、第2次産業、第3次産業の就業者を増やした方が、国は豊かになるわけです。
 大きく見ると、都会で働いている人は、今、約2億人です。そのうち、「出社に及ばず」という一時帰休の人たちも含めると、約2,000万人が実質的失業です。しかし、中国で失業率というときには農村の余剰労働力は入らないのです。農村の余剰労働力をどう見るかについてはいろいろな説があるのですが、少なくとも1~2億人いると思います。それだけ農村には余剰労働力があるのです。ですから、農繁期には農村で働くけれどもそれ以外は都会に出てくるという流動人口が、中国では約8000万人といわれています。
 では中国が、これから2050年にかけてどういうことになるかということですが、江沢民は去年ケンブリッジ大学で「2050年、建国100年のとき、基本的に現代化を実現する」と言ったのです。現代化の条件はどういうことなのかということを中国の新聞がいくつか挙げているのですが、現代化とは、都市の人口が全人口の約50%、大学への進学率が同じ年代の人口の15%に達することなどです。中国の人口はピークで16億人、都会の人口は3億になるのではないかといわれています。16億の半分ということは8億です。ですから、現代国家になるときには、中国は都市の人口が8億になっていないといけない。都会の人口があと5億増えて、それだけ農村の人口が減らないといけないということになります。そのためにどうしたらいいのかというと、結局、第3次産業に就業の機会を作るのが、一番コストがかからない方法なのです。ただ、第3次産業の就業率を高めるためには、やはりサービス貿易の分野をどんどん開放していかなければいけない。そう いう意味でWTO加盟は長期的に見て、産業構造を作っていくために非常に効果があるといわれています。
 今後のところを大体見ると、社会科学院の学者は、2015 年ごろに第3次産業の就業比率が第1次産業を上回る。2026年ごろに第2次産業の就業比率が第1次産業を超える。2050年ぐらいになると、1次と2次と3次の比率が大体1:2:3になる。そういう長期的な構造を変えていくには、やはり第3次産業を外に開放する。金融・運輸・情報産業・観光・医療などをどんどん外に開放していかなければならないわけです。対外開放といっても、中国へ行ってものを作るということが企業の進出の主なかたちだったわけですが、これからは目に見えないものへの進出。弁護士も行く、会計士もどんどん行くということであります。
 それからもう一つは、あまり気がついていないことで教育ということです。中国がなぜ遅れているかというと、教育が進んでいないからなのです。今、大学進学率が中国の場合は97年で7.6%。それを2010年には15%にしたいといっております。人口も増えるのですけれども、15%にするということは人口が増えないとしても、大学生を今の倍にしなくてはいけないということなのです。大学の定員を増やさないとしたら大学の数を倍にしなくてはいけないのです。実際に大学の数を倍にするのは不可能ですから、定員を増やすことになります。富山にも中国の学生がたくさん来ているということなのですが、長期的に見ると日本の18歳の人口はどんどん減っていて、日本は4年制大学が約600、短期大学が約400あって、合計で大学が1000ぐらいあるらしいのですが、だんだん学生を募集するのが難しくなってきます。中国の場合はどんどんニーズが膨らんでくる。日本が中国の学生を中心に外国人学生を受け入れる度合いは増えてくるでしょうし、あるいは日本の教育関係のところが中国に出ていくことも増えてくると思うのです。
 中国では今、MBAを取りたいという熱がものすごく盛んなのです。とにかくMBAを取りたい。今MBAを取っている人は3000人ぐらいいるのですけども、実際に中国の将来を考えると、30万人ぐらい必要だという見方もあるのです。ですから、教育という面はこれからまた一つ発展していく。個人が預金をする目的は何かというと、家を造るという目的ももちろんあるのですけれども、家よりも何よりも、ともかく親として息子や娘の教育をちゃんとしてやりたいということで、貯蓄の目的の10%は教育となっているのです。個人の金融資産が8兆元で、その10%が教育費だとすると8000億元です。それが10%もなくて、せめて5%だとしても4000億元、日本円にして5兆3000億円になるわけです。
 ですから、インターネットやIT関連の問題が、こんなに中国で急速に発展していこうとは、おそらく皆さんの頭にはそんなにないと思うのです。これからの中国とのビジネスにおいて、サービス分野でそんなに発展してくるということもあまり頭にない。それから、中小企業はもちろん大歓迎なのです。確かに中国が本当に来てほしいのは、高い技術、経営能力を持った企業なのです。そういう関連で今、中国に進出するかたちであれば、それは非常に歓迎される。しかし、それ以外でも歓迎されると思います。国有企業改革を推進するということは、結局どうやったら推進できるかというと、国有企業を活性化するためには、余った人にどんどん辞めてもらわないとだめなのです。辞めさせるだけではすまないわけで、そういう人たちにも働いてもらわないといけない。就業の機会を作らなくてはいけない。そういところはどこかというと、中国でも結局、中小企業なのです。中小企業をいかに発展させるかということが、国有企業改革をいかに成功させられるかというポイントになっているのです。ですから、日本の中小企業と中国の中小企業との協力を促進してほしいという強い希望があるわけです。WTO加盟と中国の問題については一応ここまでにいたします。
 


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