■環日本海専門情報誌■No.17



(環日本海経済セミナーディスカッション)

 中国投資ブームが終焉したかに見える最近、「中国からの撤退事例」等が掲載され悲観的な論調が出始めた中、実際の状況がどうなのか興味あるところである。
 3月25日、環日本海経済研究所(ERINA)と環日本海貿易交流センター推進事務局が共催で、「環日本海経済セミナー」を開催し、既に中国へ進出された企業代表者を交えたパネルディスカッションを行った。以下は、その一部を要約したものである。

<パネルディスカッション>

 ・パネリスト
  野村 勲 総和レジン(株)社長)
  中村 友二(クレアコーポレーション常務)
  宮本 謙治(日信工業(株)参与)

 ・コメンテーター
  戸塚 博夫(中小企業事業団投資アドバイザー)

 ・コーディネーター
  野村 允 (北陸AJEC理事・調査部長)


野村(北陸AJEC)
 中国進出後、当所予定外の問題点などを含めてお話をお聞きしたいと思います。

宮本(日信工業)
 つい最近の例では、外貨管理制度の変更や輸入設備への課税問題、またその延長措置等、千差万別、猫の目を変えるように方針や施策が変化するというのが中国の現状だと思う。
 面白い現象としては、中央政府が行う施策をまずどこかの地方政府でアドバルーンを上げ、外資等の反応を見た上で、多少のさじ加減をして実行に移すというパターンが多い。 中国は法律自体がよく変わり、単純に地方政府に掛け合っても何の回答も出てこない。したがって、中国に駐在の有無に関わらず、「人脈」をかなり大切にしないと情報が入ってこない。

中村(クレア)
一番困ったことは、機械設備輸入に係る免税措置の撤廃に伴い、新たに設備を入れると輸入税(関税)と増値税を含め51%もかかるということ。また、増値税も施行当所には還付されるといいながら現状では還付されておらず、コストに参入せざるを得ない。
 今後の問題としては、現在の機械が老朽化した場合、一体どうすればよいのか心配。中国の対外経済貿易委員会は、中国の技術も相当レベルアップしたから中国の機械を買えばいいということだが、日本製に比べるとまだまだ劣るのが現状ではないか。フォルクスワーゲンは当初「サンタナ」を輸入部品100 %で合弁生産を始めたが、現在は70%中国製部品を使っていることから、しょっちゅう故障していると聞く。

野村(北陸AJEC)
 基本給と実際支払い額が違うという話を聞いておりますが、賃金の問題はいかがでしょうか。

中村(クレア)
 基本給の大体2倍くらいになる。労働者と管理者は給与体系が違う。労働者は日給や時間給だが、幹部職員が余り仕事をせずに1,000 ~1,500 元とっており、ホワイトカラーのリストラが今後の課題。コスト的には別段問題は無い。
 私の考えでは、将来的に国内販売を視野に入れるならば、物流・情報センターとして上海に事務所を置く必要があると思う。

野村(総和レジン)
 一時的かどうかは分からないが、外資優遇措置がだんだん削られていく傾向にあり、不安感がある。人治国家から法治国家への方向付けがある中法制自体模索している状態で、アドバルーンを揚げて、反応を見ながら固めていく感じがある。
 秦皇島市に工場訪問した際、国際的に通用するデザインの検討とマーケットリサーチの必要性をアドバイスしたら、向こうの若い人と老幹部の間で大論争が起き、老幹部は外国に学ぶことに否定的なのに対し、若い人は積極的に外国に学ぶべきだと考えている。その後その若い人はイタリアへ私費でデザインの勉強をして戻って、課長に昇進しており、改革を目指す人がそれなりに処遇されているということに安心した。F/Sを組む際も、ほとんど向こうにお任せしたが、我々の技術で新しい中国の生活文化を作ろうという意欲をまとめてくれる等、中国が変わることについてのコンセンサスが得られるという確信を持ち得た。
 制度的に何がどう変わるかということも向こうの人がどんどん教えてくれる。合弁契約を結ぶ際、中国側の出資は一般的に土地建物等の現物の評価をつり上げれる可能性があることから、現物出資を指導されているが、合弁相手からの提案として、現物の評価が高くなったので、自主的に現金出資に切り替え、評価管理局を通さず、公平に契約しようといってきた。こういった例のように合弁相手との「信頼関係」があれば、中国の種々の制度的な変化があったとしても対応していけると考えている。

戸塚(中小企業事業団)
 中国への進出形態が、最近合弁より独資の割合が増える傾向にある背景には、特に中国人と日本人の考え方が根本的に違うことがある。中小企業事業団は、毎年「撤退事例」を出しておりますのでぜひ参考いただきたい。撤退しないためには、事業運営上常に日本側が技術力、販売力、企画管理力等の強みを保持することである。中国側の合弁のメリットは、外貨獲得、先進技術の習得と余剰労働力の吸収がある。日本側といえば、国内販売のため。しかし、中国側の販売のノウハウを過大評価したために、撤退したケースも多いので、注意が必要。
 増値税が還付されない、また還付率も下げられている背景には、香港側の悪が原因している。聞いた話では、高級薬品としてドラム缶に水を入れて輸出し、中国政府に偽造の証明書を申請して、還付を受けて、結果的に本来の還付されるべきお金がなくなっている。つまり、優遇の撤廃の裏には香港の悪があり、その影響が外資にきている。
 あと注意が必要なものに「三角債」がある。例えば中国国内販売の場合、卸売りでも小売で売れてはじめてお金が入るので、頭を痛める現地日系企業は、現金取引にするか、外資同士の取引にしているところが多い。外資同士であれば、小売で売れなくても、製造メーカーが組立メーカーに請求するとその親会社がお金を振り込んでくれることが多く、危険負担を回避している。

野村(総和レジン)
 中国で事業を行う場合、一番重点を置いて考えるのは、パートナーの選び方だと思う。私共越中人は「先用後利」という売薬の考え方を経営理念にしているが、おそらく華僑資本には通用しない。しかし、中国は12億人いるので、理解してくれる人が必ずいるはず。また、共通の新しいものを創造するというお互いのコンセンサスがきちっとしていれば、企業経営継続の大きな動機になる。いずれにしても、中小企業の権限をもったオーナーが、向こうへ行って自分の足で回って、自分の目と耳で信頼できるパートナーをみつけるかどうかが最大の鍵だと思う。

中村(クレア)
 中国へ進出して失敗する例で、日本人と中国人との給与格差から問題がでていることが非常に多い。そうした場合、日本人の給与を日本で払う必要があり、国内販売する場合は、日本で給与を支払う根拠が無くなるので、当然製品も日本に持ってくるという形態を取らざるを得ない。中国側はやたら国内販売をいうが、中国の所得水準からみて採算が合わない状況では、日本の工賃を前提として、中国側にできるならやって下さいというスタンスで対応している。

宮本(日信工業)
 進出の留意点として、まずF/Sの打ち合わせの際、「備忘録」を取り交わすこと。相手はよく「メイウェンティ(問題ない)」というが、必ず相手に問題があると受け止めるまで話をする必要がある。二つ目に、判断権限を持っているトップを交渉の場に出てもらうこと。またある程度能力のある通訳が必要。あと技術援助契約も法定で10年の縛りしかないので、開示の中身も検討が必要。三つ目は、給与格差の問題。同一職同一賃金ではなく、同一能力同一賃金を主張すべき。労務費は、工会費(組合費)を含め72%になる。合弁・独資といった形態の選び方は、インマーケットでやるか、輸出かを検討する必要がある。合弁パートナーも必ずしも同業者でなくてもよく、製造業にこだわる必要もないと思う。

戸塚(中小企業事業団)
 中国と日本の風俗、習慣、考え方が全く違うことを理解して、訪中回数も最低7、8回は行ってとことん話し合ったほうがよい。投資計画、目的をしっかり持った上で、自己体力の範囲内で行うこと。投資は合弁が全てではなく、委託加工という方法もあるので、一番理想的な投資方法を十分検討すべき。
 先方は合弁といってくるでしょうが、リスクを考えれば貿易がベスト。貿易でも品質が問題ある場合、中国側の貿易公司に頼んで工場を紹介してもらい、技術指導をして委託加工をする方法もリスクが少ない。委託加工を合弁へのステップとして行い、その状況を調べた上合弁等にふみきっていくことを考えた方がよい。
 最後に契約をする際、安易にすぐサインをせず日本に持ち帰って、十分チェックすること。相手が執拗に催促するなら、そんなところと契約する必要はない。大体1ヶ月は待ってくれるはず。

野村(総和レジン)
 あまり大企業、大商社に振り回されず、オーナーが直接行って、トップとの信頼関係を築くことが大切。いくら契約上問題なくてもどこでひっくり返されるかわからない。行政の姉妹提供を活用する方法もある。

中村(クレア)
 投資形態を問わず、上の監督官庁とは絶対に仲良くしておく必要がある。仮に合弁相手が何か言ってきても、上と仲がいいと自然の圧力になる。また交渉にあたっては、最初決めたことを最後までとおすことも必要。

宮本(日信工業)
 進出先のロケーションも慎重に検討された方がよい。上海、北京等の大都会は場慣れしすぎて、交渉にもたけており、実際面でうまくいかないこともある。逆に地方都市で外資が出ていないところは非常に歓迎され、手続き関係もスムーズに進むことがある。
 交渉では、最後はトップを出してくることが必要だが、相手のメンツをつぶさないよう、ある程度妥協点を決めておく必要もあると思う。

戸塚(中小企業事業団)
 例えば合弁法についても相手はまず知らない。知らないもの同士がサインして問題が起こらないはずがない。慎重に一つ一つ確認して話し合うことが重要。

野村(北陸AJEC)
 アンケート調査でも将来最も有望な投資先として中国が挙げられている一方で高いリスクもいわれています。対中投資については、きめ細かな、しかも慎重な取り組みがどうしても必要になるのではないかと考えております。






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