福井アドバイザーの 海外ビジネスコラム

第25回 企業よ、世界のメガトレンドに乗れ!

(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター
海外ビジネスアドバイザー 福井 孝敏

 2020年に全地球を一瞬にして覆い尽くした新型コロナウィルス感染症の災いは未だに衰えを見せていない。国境の全面封鎖等強烈な対策を講じて封じ込めたかに見えた国でも、台湾やベトナムのように感染者の突然の急増に見舞われていて、その脅威を改めて世界中の人が認識させられている。
 その中でほぼ唯一、明るい光が差し込んでいるのがこの感染症のために急遽開発されたワクチン接種で、その接種が進んでいる国ほど感染者数が一定程度抑制されているように見える。
 ワクチン開発前に感染者数を世界の中で人口比当たりで抑制していたアジア諸国はその後出現した変異株の影響か、上記の台湾やベトナムに止まらず、感染者数が増加している国が多く(タイ、マレーシア等)、またそうした国はワクチン接種も進んでいない。
 感染抑制の為の切り札として現時点でほぼ唯一のワクチン接種が早く進む事が強く望まれる。

 そうした「コロナ禍」は当然の事ながら世界の経済にも甚大な影響を及ぼしている。共通しているのは感染抑制の為に大きく制限された人の移動に関する業界が一番大きな負の影響を受けた。旅行や観光に関する業界、飲食業等である。
 製造業も当初工場閉鎖や出勤抑制等で大きく落ち込んだが、これについては中国が端的であるが、総じてワクチン接種の進行等で感染拡大を抑制した国ほど早く立ち直りつつある。

 「コロナ禍」からの経済立ち直りでのキーワードは何であろうか。それは「デジタル」「グリーン(脱炭素化)」「ヘルスケア」だろう。
 「デジタル」では「企業経営のDX(Digital Transformation)化」「量子、AI、ロボット、自動走行等のR&D」「キャッシュレスを始めとした非接触を通じた便利な暮らしとサービス生産性の向上」がその内容、「グリーン」では「脱炭素化に向けたエネルギーの転換」「水素社会、カーボンリサイクル等革新的なエネルギー・環境技術の開発」「循環経済への転換(プラスチックのリサイクル等)」がその内容、「ヘルスケア」では「ワクチン等国民の命を守る物資の確保」「データに基づく医学的エビデンスの活用を通じたバイオ医薬品の開発」「企業の健康投資の促進」「イベント等でのコロナ感染拡大を防ぐ新技術の開発」がその内容であろう。
 前回のコラム(5月21日)でタイ「BCG(バイオ、循環、グリーン)経済」を国家戦略と位置付けた(21年1月)事を紹介したが、まさにこうした現在の世界経済の進もうとしている先を見据えていると言えるだろう。

 ここで他のアジア諸国を含めて見てみよう。
 シンガポールは21年2月に「グリーンプラン2030」を発表している。これは持続可能な社会づくりと共に新たな環境ビジネス機会の創出を目指すもので、5つの取り組むべき課題を挙げた。即ち、「都市の中の自然環境創出」「持続可能な生活の推進」「クリーンエネルギーの活用」「グリーン経済の発展」及び「回復力のある未来の構築」で、温室効果ガス(GHG)低減や環境に優しい車両の導入等を挙げている。
 また、インドでは19年9月、モディ首相が国連気候変動サミットで同国の発電設備容量に於ける自然エネルギーを拡大する新たな目標を発表した。同首相は20年11月、再生可能エネルギー投資に関する会議で、再生可能エネルギー産業に年200億ドル(約2兆円)の投資が必要とした。

 「グリーン経済」の肝である「カーボンニュートラル」の達成に際して最も大きな壁として立ちはだかるのが「電力」分野である。アジア地域でGHG排出の最大のセクターは電力で、これは同地域で石炭火力発電の比重が高い事にある。
 中国、インド、インドネシア等では国内に豊富に賦存する石炭を活用している訳だが、石炭は発電燃料の中で最大のGHG排出燃料である。これらの国では石炭の比重を下げる方向ではあるが、それでも2050年時点でインドでは石炭の比重が55%、ASEANでも39%を占めると予測されている。
 石炭の次にGHGを排出する天然ガスは2050年時点でASEANの発電構成の34%を占める。
 グリーン経済達成の最大の要素である再生可能エネルギーの比率はASEANでは2018年の6%から2050年に15%に拡大すると予測されている。但し、再生可能エネルギー移行に当たって最大の障壁は莫大な初期コストがかかると言う点である。政府による財政的支援やインセンティブが必要であろうが容易な事ではない。

 「グリーン経済」達成のため、エネルギーの「供給面」については上記のように大きな課題があるが、エネルギーの「需要面」はどうであろうか?
 この点に関して米国の調査会社であるベイン&カンパニーが2020年11月に発表した興味深いデータがある。それによると東南アジアではグリーン経済の進展に大きなポテンシャルがあるとして、2030年までに年間1兆ドルにのぼる需要があると推計している。
 詳細は以下の表を参照頂きたいが、「エネルギー・資源」「食料・農業」「産業・物流」「都市」等の項目別にそれぞれ想定し得る需要額を推計している。
 「エネルギー・資源」では「省エネ」「再生可能エネルギー・代替燃料の利用」「バイオ燃料」などが、「食料・農業」では「代替プロテイン・機能食品」「養殖・都市農業」「食品ロス削減」など、「産業・物流」では「デジタル物流マネージメント」「効率的な製造システム構築」「物流のクリーン燃料の利用・エネルギー効率の高い倉庫」「持続可能な包装」など、また「都市」では「モビリティー2.0(EV,ハイブリッド車など)」「廃棄物処理・グリーン素材」「次世代住宅」などが掲げられている。
 このような項目を見ると、日本企業が活躍し得る分野が多数あるように思う。
 従来の発想・やり方で販路拡大を求めるだけでなく、そこに新たな、小さい改善を見つけてそれを強調する販売方法に変えるとか、一工夫を施す事が大事であろう。
 富山県の得意な食品・食材販売でも「環境に優しい」製造・加工方法や包装材を使うとか、新しい機能性食品を開発するとか、工業製品であれば「省エネ」「使い勝手の良さ」など、「エネルギー効率の高い住宅・素材」や「それまで廃棄されていたものの有効利用」(例えば家畜の排泄物の肥料への転換とか)等々、時代のトレンドにうまく乗った対応が求められている。
 「カーボンニュートラル」の達成は自然に出来るものではなく、まさに一人ひとり、一社一社の努力の積み重ねでもたらされるものである事を常に胸に置いておく事が大切であり、それが「より良い生活」「より良い会社」への近道である。

表「グリーン経済がもたらす経済効果の推計(ASEAN)」参照 下記のリンク先ページの「表2」を参照ください。
リンク先:ジェトロ ウェブサイト 特集「グリーン成長を巡る世界のビジネス動向」

2021年 5月 31日 記