福井アドバイザーの 海外ビジネスコラム

第31回 コロナ禍、米中対立継続下に於ける中国市場の姿

(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター
海外ビジネスアドバイザー 福井 孝敏

2020年初めから始まったコロナ禍に於いて大きなリスクとして認識されるようになったのがサプライチェーンの中国偏重。
マスクや消毒液、医療用衣類等が特に目を引いたが、自動車用部品が不足して国内の自動車メーカーが減産を強いられるとか、果てはウォシュレットの操作盤が不足して国内での新築家屋の引き渡しが遅延するとか、普段全く意識していない問題が露呈した。

日本政府はこうした問題を打開するために、中国からASEAN地域へのサプライチェーン移管とか、中国から日本国内への移管に伴う補助金まで支出すると 言った政策を打ち出した。
これらは一定の効果を生んだ事は間違いないが、いざ、マスクや消毒液が市場に出回るようになった今では、継続してその事業を続けている企業は少数に留まる。
この補助金を利用したのはコロナ禍に係わる製品だけではなく、自動車部品や電子部品メーカーもあったが、その多くは中国の生産能力はそのままにASEAN域内の拠点に新規の製造ラインを構築するのがメインであり、これは米中摩擦を受けて対米供給を確保するためにASEANに拠点を移した訳である。
その結果、従来の中国内の拠点に出来た生産スペースを中国国内向け拡大のために使った例もあった。即ち、「脱中国」と言うものではなかった。

また、トランプ政権時に始まった中国製品への懲罰的な関税引き上げや、ファーウエイやSMIC(中芯国際集成電路製造―中国最大の半導体メーカー)への制裁措置もそれらに製品を供給していた日本企業に大混乱をもたらしたが、中国から米国への輸出は減るどころか増えているのが実態である。
また、ファーウエイやSMICに対する輸出も、米国内の両社向けサプライヤーの多くが製品や技術の輸出許可を取得している。
2020年11月から2021年4月までにファーウエイ向けに113件、610億ドル、SMIC向けに188件、420憶ドルの輸出許可が米国政府から出ている。
バイデン大統領は21年2月に半導体、EV向けバッテリー、医薬品、レアアースの4品目のサプライチェーン見直しの大統領令に署名したが、半導体以外で中国に依存しない安定的なサプライチェーンの構築は不可能。

日本企業も中国から製造拠点をASEANに移しているが、それがどれほどリスク回避につながるか不透明。
ASEANに於けるコロナ禍の深刻化で、自動車部品や半導体の供給に巨大な不都合が生じている。

中国リスクと言えば、最近の電力不足や環境規制の強化等で日系企業の操業に大きな支障が生じてもいる。
それでも日本企業による対中投資は増加傾向にある。
2021年1-9月期の投資実行額は前年比で15.3%増の2兆円超。コロナ禍が始まる2019年比でも16.8%増。半面、撤退(回収)額も増加しているが、これは 以前から現地企業が赤字続きであるなど低迷しているのが殆ど。
日本企業にとって、中国市場は依然として魅力がリスクを上回っている。

以上のように諸々の事象を見て言える事はただ一つ。
それはこれまで言われて来た「中国は大市場ではあるが、『世界の工場』ではなくなった」との評価は大きな誤りであったという事。
ではそれは何故か?
一つは中国のモノの生産が以前より効率化・高精度化した事、もう一つは政府主導で新市場を育成していて、そうしたハイスペックな製品を生産する人材やインフラがその他のアジア諸国には揃っていない事だろう。

以上
2022年 1月14日 記

資料 (ジェトロのビジネス短信2021年08月17日記事の添付資料)(PDF)
 図 中国の対米輸出額と伸び率(前年同期比)の推移
 表 中国の2021年上半期の対米輸出(品目別)