李 吉鉉
韓国 延世大学経営大学院客員教授
ホテル新羅代表理事社長
1929年生まれ
延世大学経済学科卒
米国ワシントン大学経営大学院卒、
三星物産理事、東京支店長、三星ジャパン(株)代表取締役、
三星物産副社長等を歴任
1994年には対日投資会議専門部会委員に就任


 健全な企業を保つためには、ということが最近は宿題になっています。どんな不況だとか、どんなバブルが訪れても克服して、健全に育成されている会社、50年、100年経った会社の歴史を見ますと、皆まず保守的な財政を保つ、キャッシュ・フローをちゃんと保つ、ということがいちばん重要だと思います。2番目は危ない投機はしない。人がやるからといって、儲かるからといって、それに従っていくということはしない。常に本業を大事にする経営の仕方というのがやはり必要ではないかと私は思うのです。
 会社は常にリストラクチャリング、リエンジニアリングをして、身軽く、組織もしょっちゅう変えて世界中の、隣の県の、他の国のベンチマーキングをして、自分の会社の製品が世界的にどのくらいの水準にいっているのか、ほかの会社ではどのように作っているのかをしょっちゅう見て、比較優位に立つ、ということが企業にとっては必要ではないか。これは国の政策も同じだと思います。競争力としては、いちばん優位に立つ、創意に満ちた安全な企業の育成というのが前提条件だと思います。
 これをやめて一発で儲かるとか「人がやるから僕もやって儲けたい」とか、過剰設備をしたり、過剰投資をして、借金に追われるようなことはとてもよくないことだと思うのですが、これをやってきたのが韓国の経済状況でした。それでIMFの管理下に置かれたのです。その当時、韓国の持っている外貨は36億ドルしかなかったのです。金大中政権になり、素晴らしい経済政策で、とにかく外国の資本を取り入れよう、そして優秀な製品をどんどん作って輸出することに力を注いで、現在650億ドルの外貨を保有するようになりました。 こういうIMF管理の状況を克服したことを、国では「塞翁が馬」といいましょうか、「災い転じて福をもたらす」といいますか、こういうことがあって良かった、とても軽くなったと。そしてリストラ、リエンジニアリングをやり、売れる品物だけを重点的に作る。つまらないことはやめよう。人は減らしても、販売高とか、収益はかえって増えていったではないか。在庫を持つということは、これは癌だと。借金はできるだけ軽く、身軽にして経営をしようということをやって成功したのです。今年は貿易も27年ぶりに黒字に転じました。もちろん投資を減らしたこともありますが、とにかくグッドニュースと言えるでしょう。経済成長も2ケタ近くいっていますが、政府の発表では8%とされています。金利も2ケタから7%台、6%台に下がっていますし、失業率も8%から5%台に下がりました。
 とにかく韓国経済は、1965年に国民所得が1人あたり75ドルだったのが、1万ドルにまで伸びました。今は7,000ドルに減りましたが、これはまた順調に伸びていくと思うのです。あの当時の1億ドルの輸出高が、いま1年間1,400億ドルの輸出を遂げるようになりました。この主力は半導体です。
 水の良い富山県でも、これは興味ある事業だと私は思うのです。産業としてのコメ、煙突のない工場づくりですから。2番目は自動車、それから造船、製鉄、石油化学、電子機器、これをもって輸出の主力とされております。
 ただ、いまの国の政策というのは、今の政権を初めて審判する来年の地方総選挙がありますから、それに向かっていろいろな政策が整えられています。最近、注目されているのは、外国からの投資がどんどん増えているのは、設備投資ではなく、証券界、金融界にだいぶ増えており、今年はもう320億ドルの利益を上げております。上場930社の現在の株価総額は400兆円ですが、これはNTTが1社で200兆円ですから、全体としては日本の100分の1の株価しかありませんが、800ポイントが上下にゆれ、1日30ポイントから50ポイント上がったり、下がったりしております。
 韓国経済に対する心配の種は、まだ数多くありますが、その中で私が一番言いたいのは、製造業をもっと重視したいということですが、それが一発的なまたIMF時代の前のような過剰設備ではないのですが、金融業界に金が集まるということが懸念です。2つ目はインフレの助長です。いろいろインフレの懸念もあります。
 とにかく必要悪だけれど外資を入れなければならないということで、どんどん外資が入ってきまして、M&Aの活動があり、外国企業に対する特別な待遇がとても目についております。民族資本がこれでは育たないのではないかという懸念もあります。3番目は皆さんご存じのように、輸出5大企業の中で、3番目の大宇グループが不渡りを出しまして、約60兆ウォンぐらいの収拾に、いま政府は頭を抱えております。
 もう1つは、政治主導的な経済政策が行われており、大前研一さんも「韓国で大企業がみな駄目になったら、韓国経済は悪くなるぞ、アメリカの言いなりにあまり金融業ばかりにいくな」と警告されていますが、韓国の財閥は今、だいぶ解体されるような状況になっています。これがどこまでどのようにいくか。
 私がここで申し上げたいのは、国の「国力」というのは何か。国の力、「国力」というのは、軍事力とか、人口とか、そういうことではないと私は思います。その国を引っ張っていくリーディング・カンパニー、世界的に見て非常に大きな会社が日本は100社、アメリカは187社あります。韓国にはこれが9社しかありません。ドイツは42社、フランスは39社、これが「国力」です。輸出して外貨を儲ける。世界のどこの国でも必要とするような品物を作り上げる。そういう会社をたくさん持っている国が、「国力」があると私は思うのですが、民族資本を育て、「国力」を持たせることが必要ではないかと思います。
 9月下旬にクリントン大統領が発表しましたとおり、韓国の冷戦がこれで終結されるのではないかという希望を持ち、6つの事項を緩和して出しました。北朝鮮の製品を何でも輸入してあげる、アメリカの消費財も金融サービスも、みな北に送ってあげる。全面的に外国の投資も北に向かい始めるということで、この11月1日にはアメリカの商工会議所の方々が、北朝鮮を訪問することになっていますし、11月初旬からは金剛山観光に日本の方々が行けるようになりました。 とにかく北朝鮮を何とか説得して、国際舞台に出してあげようということが、今の宥和策であります。ご存じのとおりミサイルというのは、メイド・イン・ロシアの製品であって、日本の部品ももちろん入っているでしょうが、これは「何の役にも立たない」、「戦って得をすることはない」、ということに早く目覚めさせるのが、とても重要なことだと思うのです。
 ドイツのシュミット前首相が、「韓国が統一するためには、囲んでいる4つの国々を早く説得することと、物流をどんどん促進することだ、そうすることによって、それがなされるのだ」と言いました。 それは東西ドイツ統一の教訓から言われたこと思うのです。これからは各企業がどんどん進出して、金剛山観光の開発だけではなく、羅津、先鋒はもちろんのこと工業団地改修、軽工業団地設立とか、いろいろ話が進んでいますし、どんどん人の交流、品物の交流、企業の交流をする。それがあって初めて彼らが国際舞台に出ることが出来ると私は期待しているのであります。
 北朝鮮を囲んでの大きな国々がいま見ている夢が同床異夢では駄目ではないか。異床同夢でなければ駄目ではないかと思います。そのため民間企業が早くお互いに訪問し合って、交流し合って友好親善を保つことがとても重要だと思います。日本海という池を囲んで、4つの家族が同居しているのと同じだという考えを私は持っております。とても小さい北東アジアが仲良く同居するということ、これは経済人が先頭に立って収拾すべき課題だと思います。 今世紀を振り返ってみましても、戦後、東アジア各国の経済発展の構造を見ますと、日本の資本、技術が流れ、それが軽工業品から始まって、重化学工業の順で成果を収めたのは事実です。特にアジア全体にわたり、日本の果たした役割というのは偉大で、影響力は大きかったのです。北東アジアの21世紀も同じく日本とアメリカを軸として、韓国、中国、ロシア、モンゴル、みな抱き合って、相互経済協調体制を保ちながら、安保の面でも共存の面でも、未来的豊かさの面、環境づくりの面でも提携は不可欠だと思うのです。 日韓両国は1965年に国交回復し、30年以上日本経済と水平分業をし、資本と技術、また人的資源がよく交流し合い、戦略的な提携でとても良い成果を収めています。これは成功例の1つだと思うのです。特に今年の7月から、日本の文化は何でも自由に入ることになりました。商品も何でも入るようになり、いま日本の車も電気製品も、文房具、たくわんまで、商品というものは皆、韓国市場に溢れています。こういう状況で、日本に対する親近感が深まっているのは事実です。年間の観光客も400万人、ワールドカップサッカーの時には600万人以上になることを期待しております。
 10月28日には済州島で日韓首脳会議がありまして、そこでは自由貿易地域を作ろう、また共同生産基地を作ってみようという話が出ています。朝鮮海峡を200㎞隔てて、北九州の西側と、韓国の南のほうで生産している品目は同じ物がとても多いのです。製鉄にしても車にしても、石油化学にしても、漁業加工にしても同じものですから、そこで共同してやれば、コストを抑えることができるのです。30~40%安く作れるのです。競争力がつくのです。それを自由貿易地域を作ってやったらどうか、というのが課題になっているそうです。また、お互いに持っている過剰設備を、お互いに相互補完し合って、生産基地を作ろうということなのです。これはこれからの課題だと思っています。
 昔、戦場にかわいい子を送ったように、皆さんのお子さんを世界の一流の市場、一流の学問の場にどんどん留学させ、そこで集めた知識をもって、産業の高度化に結びつける。そういう若者をたくさんつくっていただきたいと、私は皆さん方にお願いいたします。富山県では、お嫁に行く時は、車で3台とか、5台とかにいっぱい品物を積んで行くという、日本でも有名な所だと思いますが、そういう娘や息子に世界共通のクレジットカードを1枚あげるような、そういう態勢になればと思います。 どんどん先に向かって若い人を育てて、新しい市場、21世紀の競争に向けて育てるべきではないかと思うのです。世界的な経済大国日本が安保理事国になるのは当然であり、日本は、リーダーシップを発揮する義務があると私は強調したいのです。
 




topへ


frontへ