モンゴルの主力産業は、日本の4倍以上の国土から産出される鉱産物と、人口の13倍以上の家畜に依存している。中でも、主要輸出産品として大きな割合を占めているのが「金」と「カシミヤ」である。本稿では、この2大産業の現状を踏まえ、その問題点と今後の可能性を考察したい。

<乱採掘が進む金鉱脈>
 金の生産は97年以降増産が続き、99年は10トンに達した。輸出額は1億1,700万ドルと、輸出総額の33%を占めている。また、金採掘に伴う税収入は1,123万ドルに上り、政府の貴重な財源となっている。
 現在、モンゴルで確認されている金の埋蔵量は160トンとされている。多くの採掘業者は旧式の設備・技術で採掘しているため、含有量の50~70%しか採取できない。97年以降は年平均10トン近くもの金が採取されており、このペースで採掘が続けば、15年程で掘り尽くされてしまう計算になる。金採掘者には採掘後、土を埋め戻すことが土地法で定められている。採掘後の残土放置には罰金が課せられるが、一番重くても250ドルに過ぎない。無許可の採掘業者も多く、採掘後、残土を放置する悪質な採掘が後を断たない。現在は、地表近くにある砂金が主に採掘されているが、地中深くに眠る金鉱脈の採掘は採算がとれないため、いずれ経営が行き詰まるのは明らかだ。また、採掘後の土地は、モンゴルの観光資源である自然の景観バランスを崩しかねないと危惧されている。

<中国へ流出するカシミヤ原毛>
 99年のカシミヤ原毛・製毛輸出額は5,715万ドルと輸出総額の17%を占めている。家畜の個人所有が認められた90年からカシミヤ用の山羊の頭数は急増し、現在では1,103万頭と90年の2倍以上になった。一方、最も数の多い家畜である羊は1,519万頭で、10年前に比べほとんど増加していない。山羊が大幅に増加した要因には、①市場経済移行後、牧民の生活に現金が浸透し始めたこと、②山羊から採れるカシミヤが高く売れること(99年輸出単価:カシミヤ原毛18ドル/トンでウールの26倍)が挙げられる。
 99年のカシミヤ原毛総生産量は2,206トン(注)、原毛・製毛輸出量が1,884トンであることから、約85%が輸出用とみられる。カシミヤ原毛輸出の約半分は中国向けだが、実際には貿易統計に現れないバーター取引により、さらに多くの原毛が中国へ流出しているとみられる。また、中国人の雇うバイヤーは、資金繰りに窮するモンゴル系のカシミヤ加工会社を横目に、原毛を買い占める動きをみせている。2000年3~4月の間、国営ゴビ工場では、原毛が調達できず操業を縮小する事態が起きている。実際、モンゴルのカシミヤ生産工場では年間加工生産能力の10%が稼動しているに過ぎない。モンゴルは世界のカシミヤ生産の4分の1を生産しながら、そのほとんどを付加価値の低い原毛・製毛のまま中国へ流出させている。
 一方、中国の繊維業界は目前に迫ったWTO加盟により、最も恩恵を受けるといわれており、カシミヤ分野でも着実にWTO加盟の準備を進めている。モンゴル国内には、中国資本によるカシミヤ製毛・製品工場が続々と設立されている。これは、中国の主要な輸出商品である繊維・アパレル製品が多国間繊維取決(MFA)の管理下にあり、中国本土から輸出できる数量が限られているためだ。他方、モンゴルにはこうした制限がないため、中国系企業はモンゴル製品として対米輸出を増やしている。中国のMFA枠は段階的に外されることになっており、中国企業が一層有利になることは間違いない。

<望まれる中長期政策>
 このように、金の乱採掘、牧民達の場当たり的なカシミヤ原毛の取引などにより、モンゴルの貴重な産業が衰退の危機にされされている。政府は2001年を「土地再生年」と位置づけ、無許可採掘、埋め戻しを行わない業者に対する罰金を重くすることを検討し始めた。また、カシミヤ原毛の流出を食い止めるために、国内でカシミヤ製品を生産すれば補助金を与える制度の導入を検討している。モンゴル政府は国内産業の発展に向けてようやく対応策を打ち出し始めたばかりだ。持続的発展のためには、新たな金鉱脈の探査、カシミヤの生産・販売体制の確立など、長期的な視点に基づく政策が必要とされよう。
 また、日本には古くから培われた採掘、繊維技術がある。特に日本のアパレル業界の目が外に向いている時期であり、日本の資本を受け入れる絶好の機会である。今後、鉱工業、カシミヤ業界におけるモンゴルと日本の協力関係が期待される。
(注)一頭の山羊から採れるカシミヤ原毛を200グラムで推計
 
 

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