■環日本海専門情報誌■No.21


ロシア金融情勢とウラジオストク経済


(白鳥 正明:富山国際大学教授)


1.ロシア金融情勢(1997年秋)
 証券市場緊急対策:1997年7月以来続いたアジア諸国の株式相場の下落、10月27日のニューヨーク、ロンドンの株式相場の暴落、アジア諸国と香港株式相場の急落以来、11月10日からモスクワの証券市場で外国機関投資家が大量のロシア国債と株式を売却したため、国債相場と株価は急落し市場金利が急騰した。ロシア証券市場の外国機関投資家の取引シェアは、株式市場で約70%、国債市場で約30%といわれるほど高い。
 中央銀行は11月11日、公定歩合を年率21%から28%に、外貨預金準備率を6%から9%に引き上げ、さらに国債担保貸出利率も引き上げた。これは相場が下落したロシア国債の市場利回り上昇に公定歩合を近づけ、市場金利を引き上げて内外投資家の投資収益を維持し、国債と株式の売却代金(ルーブル)が外貨市場のドル買いに流入しないようにするため、ドル預金運用の収益性を抑制したものである。また同時に次項の中期為替相場政策も発表された。これらの措置はアジアで始まった世界的な証券市場の混乱の影響を最小限に止めようとした中央銀行の強い意向の現われでもあり、また歴史が浅く小規模なロシア証券市場も、今や世界の証券市場ネットワークに組み込まれていることを示している。
 中期為替相場政策の発表:連邦政府と中央銀行は11月10日共同声明「為替相場政策について」を発表し、デノミネーションが実施される1998年初から2000年末まで、3年間のルーブル為替相場の変動幅を98年初の1ドル=6.2ルーブルを中心に上下各15.32%、5.25ルーブル~7.15ルーブルにすることを明らかにした。中央銀行は従来のとおり銀行間市場における中央銀行外貨売買の中心相場を毎日公表し、売買相場の開きは1.5%以内に限定される。
  しかし、11月初の外国機関投資家によるロシア国債と株式の投機的売却総額は、中央銀行の外貨準備150億ドルに相当する規模で、中央銀行はルーブル相場維持のためドル売りルーブル買い市場介入を実施し約25億ドルを失ったといわれる。その結果、中央銀行外貨準備が減少し、今後、ルーブル相場の変動幅を維持できるか懸念されている。
 デノミネーション実施法令の公布:1998年1月1日から実施されるデノミネーションは、97年8月4日付大統領令第822号により決定され、その後、9月18日付連邦政令第1182号により実施規定が定められた。これに基づき10月1日付労働省令第52号が給与・年金・奨学金・扶助料等の換算方法を、10月10日付中央銀行通達第86-97号が決済書類の変更を、同日付指令第01-243号が中央銀行・金融機関の財務諸表換算方法及び会計処理基準を、10月31日付財務省令第76H号が財務諸表勘定科目の換算方法を定めた。
 デノミネーションにより旧通貨1,000ルーブルは新通貨1ルーブルの割合で交換され、98年中は旧通貨も流通するが、2002年末まで新通貨と交換しなければならない。1961年旧ソ連のデノミネーションでは旧紙幣が2~3ヶ月で回収され、新旧紙幣の同時流通期間も短期間に終わった。公的機関と企業は、97年12月1日から98年末まで新旧両方の価格を表示しなければならない。中央銀行は、5、10、50、100、500ルーブルの新紙幣と、1、2、5ルーブル、1、5、10、50コペイカの硬貨を発行する。また、あらゆる金銭債権・債務は98年1月1日から1,000分の1に換算され、原則として1コペイカ未満の金額は四捨五入される。97年12月現在の為替相場によれば、約46ルーブルが日本円1円であるが、98年1月からは1ルーブルが約20円になる。

2.ウラジオストク経済情勢(1997年1~9月)
 増加する企業・団体:1997年10月1日現在、ウラジオストク市の国家登録企業・団体数は18,697件で年初来14.6%の増加であった。私有企業・団体は全体の76.4%、国有は3.4%、自治体所有は1.3%で、最も多かったのは私有商店・レストランで48.4%を占めていた。
 漁業製品・非食料品の生産減と缶詰・酒類の生産増:ウラジオストク市内の製造業企業の生産額は4.5兆ルーブル、前年同期比で16.6%減少した。食料品部門で91.3%のシェアを占める漁業製品の生産(缶詰以外)が4.1%減退したためである。食料品部門で生産が増加したのは、魚類缶詰(前年同期比6.3%増)、酒類製品(2.4倍)、加工食品(9.3%増)であった。加工食品の生産増は、外資合弁企業「コカコーラ・アクフェス」の非アルコール飲料の増産によるものであった。非食料品部門では生産が36.5%も大幅に減少し、とくに家具、ガラス窯業製品の減少が大きかった。また、軽工業では3ヶ月間も縫製品が生産されなかった。なお、ウラジオストク市内の企業には、97年10月1日現在、石炭281,438トン、燃料用重油12,237トンが在庫貯蔵されていた。
 大幅に減少した建設工事:市内の建設投資額は6,618億ルーブルで前年同期比29%減少した。このうち生産用の新築、拡張、修理、改装工事は3,398億ルーブルで全体の51%を占めたが、前年同期比では46%も減少した。下請け工事額は6,008億ルーブルで前年同期比7%減少した。住宅建設投資は1,325億ルーブルであったが、完成住宅面積は28.4千平方メートルで前年同期の49%にすぎなかった。
 輸送・通信の停滞:97年1~9月中の貨物輸送量は前年同期比で36%減少したが、電車の旅客輸送量は9%増加した。自動車輸送では貨物(24%減)、旅客(20%減)ともに減少した。郵便発送量は前年同期比で49%、電報発信量は30%と大幅に減少したが、郵便振替送金件数は37%増加し、年金支払件数は3%減、新聞・雑誌発送量は11%減であった。
 拡大する小売市場:97年1~9月中の市内小売り売上高は3兆4,626億ルーブル、前年同期比で実質25%も増加した。大・中規模商店・レストランの売上高は7,862億ルーブル、うち食料品3,441億ルーブルで、マクロ的にみると小売市場における大・中規模商店の食料品売上げシェアは44%に達し、大・中規模レストラン売上高は525億ルーブルで小売市場シェアは96年の6.2%から6.7%に増加した。97年10月1日現在、大・中規模商店の小売店網にあった商品在庫は1,259億ルーブルで、これは約48日分の売上げに相当すると見積られている。
 増加する国民の現金収入:97年1~9月の1人当り月間現金収入は113.7万ルーブル、前年同期比で22%増加し、労働者1人当り月間現金収入は135.4万ルーブル、前年同期比13%増加した。しかし、消費物価上昇率は96年末比17.2%であったため、国民1人当りの実質消費支出は4%増にとどまった。
 また、9月1日現在の賃金・給与未払額は3,212億ルーブル(前月比2.3%増)、うち連邦・地方予算分は771億ルーブル(前月比4.4%増)で、賃金遅配が日常的になっている。
 失業増加が続く労働市場:97年10月1日現在の登録失業者数は前年同期比で20%も増加して5,538人に達し、うち女性が77.4%を占めていた。求職者数は8,949人、前年同日比17.5%増で、1~9月間の求職者総数は14,132人、前年同期比2.2%減少した。
 アジア諸国通貨下落の影響:ウラジオストクにはアジア諸国から食料品・消費物資を輸入する企業が多いが、97年夏以来のアジア諸国通貨の相場下落はルーブル高をもたらしている。輸出国側の価格引き上げが起きていないといわれるので、ウラジオストクの輸入品価格が低下する可能性がある。
 1997年第4四半期の電力予算配賦:連邦政府は、11月1日、極東の各地方・州行政庁に対して第4四半期の電力予算を配賦し、地方自治体、共益企業(住宅管理会社等)の10月1日現在の電力料金未払い債務を毎月削減することを条件に連邦予算資金を配分する命令を出した。沿海地方のダリエネルゴ社には総額2,043億ルーブル、うち現金975億ルーブル、その他決済方法1,068億ルーブルが配分された。(1997年12月15日)





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