■環日本海専門情報誌■No.24


ロシア沿海地方経済と国際投資フォーラム


(センターアドバイザー白鳥 正明)


《1998年ウラジオストク国際投資フォ-ラム》
  1998年5月27~30日の間、ウラジオストク市において国連工業開発機関(UNIDO)、国連開発計画(UNDP)、ロシア連邦・沿海地方行政府、沿海地方投資・国際貿易促進基金共催で国際投資フォーラムが開催された。
  5月27日総会では、ロシア連邦・沿海地方ナズドラチェンコ知事、沿海地方議会ドディニク議長、ロシア連邦外務省、産業商業省、大統領府対外経済局の各代表、韓国江原道知事等が基調講演・挨拶の後、沿海地方サドムスキィ第1副知事、UNDP北京事務局デービス投資顧問、沿海地方国際局長ステグニイ副知事、アメリカ総領事ジェニファー・フロイド女史、『インゴスストラフ・保険会社プロトクリトヴァ副社長、ロシア中央銀行ルディコ・シリヴァーノフ沿海地方総局長、住友商事ウラジオストク前田事務所長、ナホトカ自由経済区行政委員会フョ-ドロフ議長、沿海地方ハサン地区リニチェンコ地区長等が、ロシア沿海地方経済の現況と展望について報告した。
 注目されたのは、UNDP北京事務局デービス投資顧問の図們江地域開発総括報告と、ロシアの法制不備と土地売買禁止のため、アメリカ企業はホテル等の事業進出が不可能であると、批判的意見を述べたアメリカ総領事ジェニファー・フロイド女史の報告であった。
《図們江開発地域のハサン地区》
 5月28日、ウラジオストク市の西約50・にあるスラヴィヤンカ港を経由してポシェット港とザルビノ港を視察した。図們江開発地域に含まれるロシア沿海地方ハサン地区のザルビノ港は、不凍港で自然条件に恵まれた良港ではあるが、[付表-1]にみるように、その規模は小さく商業港湾としてのインフラも未整備である。 ポシェット港はさらに小さく岸壁深度が浅いため大型船舶は入れない。両港ともシベリア鉄道に連結され中国吉林省・琿春との鉄道も開通しているが、レール・ゲージが中ロ国境で異なる不便さが残っている。また、大規模な道路改修工事が進められているが、大型車両の給油・修理施設もなかった。さらに、ザルビノ港にもポシェット港にも港湾管理・船員用住宅はあるが、港湾都市といえるほどのホテル等のインフラも少ない。ハサン地区はナホトカ自由経済区の港湾と比較して、明らかに固定資本の蓄積はきわめて少ない。沿海地方南西端のハサン地区は、中国吉林省、北朝鮮と国境を接し、図們江開発地域のロシア側の重要な地区ではあるが、人口は少なく大規模な通過貿易拠点にするには、相当の追加投資のほか労働力の確保という問題が残されている。
《図們江地域開発とUNDP》
 UNDP図們江プロジェクト北京事務局イアン・デービス投資顧問は、5月27日、図們江地域開発プロジェクト概要、開発戦略、経過と展望について次のような包括的報告をした。 95年10月に設置された国連図們江諮問委員会は、中国、朝鮮民主主義人民共和国、モンゴール、韓国、ロシア連邦の5ヵ国が参加して図們江経済開発地域(TREDA)を形成した。UNDPは北京事務局を開設し、外国投資・貿易の促進、経済開発計画の調整、国境輸送と港湾施設の改善、資金調達、国境手続き調整、国境通過の障害除去について参加各国への支援を開始した。木材、木材チップ、石炭、金属、金属鉱石、建材、穀物、酪農品、魚類、水産物等の商品 貿易、韓国観光客のほか、低廉な土地利用料と豊富な熟練労働力が、直接投資への国際的な 関心を集めている。97年末現在、外資総額は950百万・で、うち47.2%の448.6百万・がロシア沿海地方に、43.2%の410.5百万・が中国吉林省・延辺自治区に、9.2%の87百万・が北朝鮮・羅津・先鋒地区に向けられた。98年末までの投資総額予測は1,250百万・に達する。 当面する開発戦略は、第1に、産業・ビジネスの拡大、隣接国との通過貿易を含む貿易拡大への環境創出である。第2は地域内ビジネス・サービスの改善である。第3は、貿易拡大の支援・促進であり、国境貿易、通過貿易、鉄道貨物・旅客通過手続き、出入国VISA簡素化、地方税・行政手数料の減免、通関手続きの簡素化、貿易情報、商品価格、新製品、取引ルート等の情報提供につき、関係各国は特別措置を保障している。第4に、外国投資の促進、投資環境改善、外国投資家の信頼確保と資金調達のため各国は緊急に具体的な措置をとり、フィジビリティ・スタディに参加し、外資導入政策を採択し、汚職と悪習の除去に努めている。 TREDAにはなお未解決の問題が残されているが、96年11月琿春・クラスキノ間鉄道が開通し、98年第3四半期に営業運転が開始された。 97年2月、中国と北朝鮮間の図們江自動車道路橋も開通した。97年4~5月には、羅津とザルビノ港から中国産木材チップの日本、韓国向け輸出が開始され、開発の歩みは早くはないとしても着実に動き始めている。98年前半には、中国吉林省とザルビノ港との通過貿易取決の合意、羅津・釜山間コンテナ-航路、数ヵ月内に中国・ザルビノ港間コンテナ-航路も予定されているという。
《ナホトカ国際投資フォ-ラム》
 5月29日、ナホトカ市で国際投資フォーラムが開かれ、ナホトカ自由経済区・行政委員会フョードロフ議長、沿海地方議会ドディニク議長、ナホトカ市グネジロフ市長、パルチザンスク地区シチェルバコフ地区長等が、ナホトカ自由経済区の現状と展望について報告をし、難航しているプロジェクトの具体的な問題点を指摘したフョ-ドロフ議長や、高い投資リスクと外資誘致の困難さを率直に自認したナホトカ市グネジロフ市長の報告が注目された。
《沿海地方とナホトカ自由経済区》
 沿海地方はロシア極東地域の東南端にあり人口は2,269千人にすぎないが、面積は164千km2で、人口約2千万人の北海道、東北6県、新潟、富山、石川各県の合計に近い。ナホトカ自由経済区はナホトカ市とパルチザンスク地区からなり、人口22万人、面積4,579km2で、人口113万人の富山県(4,247km2)よりも広い。 96年沿海地方経済に占めるナホトカ自由経済区のシェア は、固定資産価額9%、工業生産高7.2%(うち船舶修理46.4%、水産加工品41.9%、陸上・海上輸送貨物量17.8%)、雇用者数10.2%、野菜生産量 10.1%で、沿海地方経済のほぼ1割を占めている。パルチザンスク地区には広大な農地と森林もあり、木材、建設石材、グラナイト等の壁材、金、石炭、ミネラル・ウオーター等の天然資源も豊富である。 ナホトカ商業港、漁業港、石油ターミナル、ヴァストーチヌイ商業港の4港は不凍港で、年間貨物取扱能力25百万・、ロシア外国貿易総量の30%、対日貿易貨物の75%を取扱い、ロシア極東最大の港湾である。 外国主要港までの距離は、新潟750・、釜山900・、台北2,200・と短い。 ヴァストチヌイ商業港 は多目的岸壁の他、石炭埠頭、コンテナー・ターミナルをもっている。一般貨物岸壁は延長595㍍、水深11.5㍍であり、コンテナー・ターミナルは4岸壁で総延長1,286㍍、水深11.5~13㍍、面積58万・でロシア最新の施設である。石炭埠頭は延長360㍍、水深16.5㍍で10万・級大型船が接岸可能である。ナホトカ自由経済区の4港は沿海地方主要港湾の97年貨物取扱量の約71%を占めたが、稼動率は約70%にとどまった。
《ナホトカ自由経済区の外資優遇措置》
 (a)1997年連邦法「自由経済区法」によると「自由経済区」に含まれる輸出工業地区の租税特典は次のとおりである。
  ・)当該地区参入の登録後5年間、連邦納付分利益税*を免除する。
  ・)登録後5年間、生産拡大・設備近代化、インフラ支出額を課税対象利益から減額する。
  ・)輸出工業地区の特定商品がロシア連邦内販売される場合、5年間、付加価値税率を5%引き下げる。
 ・)積込み、積降し、積替え及び貨物保管を含む、「自由経済区」とロシア連邦の他の地域との間の商品輸送サービスに対する付加価値税を免除する。
 (b)1995年沿海地方法律「ナホトカ自由経済区領域における工業団地法」 は、沿海地方納付分利益税*に対する租税特典 を次のように規定している。
  ・)利益計上から5年間は免税、次の5年間は50%納付、その後、清算時まで75%納付。
  ・)道路建設事業参加者は地域道路基金納付金(道路税・輸送手段取得税)相当額の免税。
  ・)「ナホトカ自由経済区」の土木建設及び社会的インフラに再投資される利益を免税。
(註)* ロシアには国税と地方税との区分がなく、徴税額を連邦政府と共和国・地方・州・特別市との間で配分する比率は税種により異なるので、同じ利益税でも、共和国・地方・州・特別市に納付する部分と連邦政府に納付する部分がある。
《ナホトカ自由経済区行政委員会》
 ナホトカ自由経済区の管理機関である行政委員会は連邦政府直轄の行政機関であると同時に、自由経済区事業に参加する企業体でもある。 委員会議長の諮問機関として連邦政府、沿海地方立法・行政機関、所属自治体の委員で構成される行政委員会諮問会議がある。行政委員会には、議長、第1副議長、副議長3人で構成されウラジオストク市、モスクワ市、ハルビン市(中国)に駐在代表を置いている。
《ナホトカ自由経済区の主要プロジェクト》
   (1)発電プロジェクト:ナホトカ自由経済区には3電力プロジェクトがある。その1は発電能力40百万・のディーゼル発電所建設 で、韓国工業団地とアメリカ工業団地向けである。現在、発電設備及び建設工事が進行中で、98年中には能力10百万・のディ-ゼル発電所が稼働する予定である。その2は、280百万・発電所建設でナホトカ自由経済区の電力不足に備えて連邦政府の沿海地方電力拡大計画に含まれたプロジェクトであるが、韓国工業団地とアメリカ工業団地の開発が遅れるため建設も遅延が予想される。その3は、10百万・風力発電所建設で投資家の選定が96年中に続けられ、同年9月アメリカ・ゴア副大統領とロシア・チェルノムイルジン前首相の会談で報告が提出されてからアメリカの New Era Corp.が関心を示した。
(2)空港プロジェクト:94年、株式会社「ゾロタヤ・ドリーナ」が設立され、アメリカのLockhead Air Terminal 社が空港拡大計画を作成し、96年、滑走路再建、空港近辺の障害物除去、駐機場マーキング等の工事が実施された。97年3月、積載量64・の民間機運行のためAH-12型機の離着陸試験が実施され、連邦政府が民間空港として認定した。しかし、Lockhead社がグラマン社に吸収合併されたため、行政委員会は新たな提携先を探している。
(3)ロシア・韓国工業団地:この団地は面積300・で、行政区画ではパルチザンスク地区に属するが、ナホトカ市に隣接している。この工業団地には100~150社の企業進出が予定され、年間約10億・、うち輸出約7億・の生産が予想されている。進出企業には、農機具製造業、韓国製部品組立による家電製品製造業がある。参加企業のためのインフラは、オリガ河流域の貯水池、水処理、給水施設の建設が97年後半に開始され、98年半ばまでには、発電能力10百万・の発電所が稼働するが、韓国経済の不振がどう影響するか注目される。
(4)ロシア・アメリカ工業団地(パシフィック・インダストリアル):96年、この工業団地"Pacific Industrial"15・の第1次基礎工事が完了し、企業進出への準備が終わった。工業団地の総面積は175・で段階的開発が予定されている。"Pacific Industrial"は同名の公開型株式会社により運営され、土地区画使用権を賃借料年5・/・で49年間長期賃借し、貨物取扱企業の他、木材加工業、水産物加工業、倉庫業等5社が進出する予定であるが、フョ-ドロフ議長は、アメリカ側に問題があり新たなパートナーを探していると述べていた。
《ナホトカ自由経済区への投資リスク問題》
 98年5月29日の投資フォーラムで、ナホトカ市グネジロフ市長はロシア経済の危機的状態はなお続き、連邦政府の援助がないので外資に依存せざるを得ないが、外資導入はきわめて困難で、その理由として、・ロシアはリスクの高い国で政治不安があり、法制とくに税制が不備で、犯罪率も高い、・ ナホトカは最低リスクで最大利益をあげる可能性はないから魅力的な投資先とはいえない、・投資不足により地区間、都市間の投資獲得競争が激しい、・高金利、長期資金調達が不可能、投資回収源泉がないというロシア経済の特殊性を指摘した。このような情勢の中でナホトカ市当局は、第1に、ナホトカ市自体の問題解決のためではなく投資家に有利な投資環境を創設する。第2に、投資家に対して特別な投資目的を強要しない。第3に、投資家が積極的にナホトカに来ないので投資家を招待する投資マーケティングを展開する方針をとっている。グネジロフ市長の率直かつ厳しい現状認識と現実的な投資誘致方針は注目される。
《ナホトカ自由経済区進出事業に対するロシア側の評価》
 行政委員会作成の「ナホトカ自由経済区・ビジネスマン・ガイド」(1998~99年版)は各国の進出状況を次のように評価している。 アメリカは、自国の太平洋岸との海運拡大戦略で海運・不動産・工業団地に進出しているが、韓国はロシア極東、中国東北、北朝鮮への市場開拓戦略で不動産、テレコム、自動車組立、輸送、工業団地に、中国は太平洋岸への進出とロシア極東の市場開拓戦略で商業、ホテル、レストラン、輸送部門に進出している。日本は薬草製薬、海 運、商業に進出しているが、明確な戦略は認められない、と指摘しているのが注目された。
 





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