福井アドバイザーの 海外ビジネスコラム

第17回 2021年の中国経済(中央経済工作会議で決まった事)

(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター
海外ビジネスアドバイザー 福井 孝敏

 中国は2020年12月16-18日、2020年の中央経済工作会議を北京市に於いて共産党中央・国務院の共催にて開催した。 会議では習近平総書記が重要講話を行い、2020年(第13次5ケ年計画の最終年)の経済政策を総括し、当面の経済情勢を分析し、2021年の経済政策を手配した。李克強総理が21年の経済政策について具体的手配を行い、総括講話を行った。以下に、その概要を記す。

1.2020年・第13次5ケ年計画の総括
➀ 2020年は中国の歴史上、極めて平凡ならざる1年であった。とりわけ、新型コロナ肺炎の深刻な衝撃に対して、戦略的に一定の力を維持し、正確に情勢を判断し、果敢に行動を採用し、非常に困難な努力を払って、人民が満足し、世界が注目し、歴史に残る答案を提出した。その結果、我が国は世界で唯一経済のプラス成長を実現した。
➡2020年は元々2010年のGDP倍増を実現する年であったが、それは未達に終わりそうなので、世界で唯一プラス成長を実現した事が強調されている。

② 2020年は第13次5ケ年計画の最終年で、5年間の奮闘を経て、計画の主要目標・任務は達成された。これにより、小康社会の全面建設は勝利の見込みであり、中華民族の偉大な復興は新たに前へ大きな一歩を踏み出した。
➡小康社会の全面実現については、昨年10月の中国共産党第19期中央委員会第5回総会(5中全会)で、習近平総書記が「2021年上半期、党中央は小康社会の全面実現について系統的な評価・総括を進め、その後我が国が小康社会を全面実現した事を正式に宣言する」としているため、今回は「勝利の見込み」とした。2021年7月1日(下半期のスタート日)が中国共産党結党100周年を迎えるのを意識しているのだろう。

2.2021年の政策の基本方針
 2021年は我が国現代化プロセスに於いて特殊な重要性を有する1年である。質の高い発展をテーマとし、サプライサイド構造改革を主軸とし、改革・イノベーションを根本動力とし、人民の日増しに高まる素晴らしい生活への欲求を満足させる事を根本目的としなければならない。「6つの安定(雇用、金融、対外貿易、外資、投資、予想の安定)」政策を着実に行い、「6つの保障(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食料・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営)」任務を全面実施しなければならない。マクロ政策を科学的・精確に実施し、経済運営を合理的区間に維持するよう努力し、内需拡大戦略を堅持し、科学技術戦略によるサポートを強化し、ハイレベルの対外開放を拡大し、第14次5ケ年計画の良好なるスタートを確保し、卓越した成績でもって建党100周年を祝福しなければならない。
➡経済運営を「合理的区間」に維持するよう努力すると言うのは、直ちに経済成長率を回復させる事は厳しいと見ているのであろう。

3.5つの「根本」
➀ 党中央の権威は危機の際に全党・全国民族・人民が困難に立ち向かう根本的な拠り所。
② 人民至上は正確な選択を行う根本制度である。
③ 制度の優位性は困難な時局を共に克服する力強いパワーを形成する根本保障である。
④ 科学的政策決定と創造的な対応は危機をチャンスに変える根本方法である。
⑤ 科学技術の自立・自強は発展の大局を促進する根本的支えである。
➡前年の内容は実務的であったが、今回は5つのうち、2つが「党中央の権威」と「制度の優位性」であり、現体制の維持そのものが強調されていて、「人民至上」はその次である。

4.2021年の重点任務
 今回は8つの任務を設定しており、2020年の6項目から増えている。 以下、比較表を提示する。
2021年と2020年の重要任務の比較
            (図表引用:ジェトロビジネス短信より)

➀ 国家の戦略的科学技術力の強化
 科学技術・イノベーションに於ける企業の主体としての役割を発展させ、リード役の企業がイノベーション連合体を組織する事を支援し、中小企業のイノベーション活動を牽引しなければならない。
➡科学技術・イノベーションに於いては、国家は組織者の役割で、あくまで主体は企業であるとしている。2019年の会議では科学技術・イノベーションに於ける国有企業の役割が強調されていたが、今回はリードする大企業のみでなく、中小企業の役割を強調している。

② 産業チェーン・サプライチェーンの自主コントロール能力の強化
 産業チェーン・サプライチェーンの安定は、新たな発展の枠組みを構築するための基礎である。産業チェーンの脆弱な部分に対し、カギとなる技術の難関攻略プロジェクトをしっかり実施し、産業基盤再構築プロジェクトをしっかり実施し、基礎的な部品・技術等の基礎を打ち固めなければならない。
➡新型コロナで産業・サプライチェーンが寸断され、米中摩擦の激化もあり、チェーンの脆弱部分の補強を重視している。

③ 戦略的重点である内需を堅持・拡大する
 強大な国内市場の形成は新たな発展の枠組み構築の重要な支えである。
➡世界経済の回復が不安定・不透明な上に、米国が中国を産業・サプライチェーンからの切り離しを図っている中で中国として内需拡大は必須である。

④ 改革・開放の全面的推進
 新たな発展の枠組みを構築するには、ハイレベルの社会主義市場経済体制を構築し、ハイレベルの対外開放を実行し、改革と開放を相互に促進しなければならない。CPTPPへの参加を積極的に考慮しなければならない。国内監督能力向上に力をいれ、安全審査メカニズムを整備し、国際一般ルールの運用で国家の安全を擁護する事を重視しなければならない。
➡CPTPPへの参加意思表明は、米国の復帰可能性とも相まって注目に値する。また、国家安全のルールとして「中国の特色あるルール」でなく、「国際一般ルール」に従う旨を明らかにした事も注目すべきである。

⑤ 種子と農耕地問題の解決
 食料安全を保障するカギは、食料は土地に依拠し、技術に依拠する戦略を実施する事にある。種子遺伝資源の保護・利用の強化、種子バンクの建設強化、耕地の「非農業化」の防止、国家食料安全産業ベルトの建設等。
➡イネと小麦の種子の供給源は完全自給自足を達成したが、トウモロコシと大豆は基本的自給を達成したが、単位面積当たりの収量が世界の先進レベルに達していない、少数の生鮮野菜は未だに市場のニーズを満たしておらず、特に一部ハウス栽培に適した野菜は依然輸入が必要と専門家は指摘している。

⑥ 独占禁止を強化し、資本の無秩序な拡散の防止
 反独占・反不当競争は社会主義市場経済を整備し、質の高い発展を推進する内在的欲求である。国家はプラットフォーム企業のイノベーション・発展、国際 競争力強化を支援すると共に、法に基づき規範的に発展させ、健全なデジタルルールを整備しなければならない。プラットフォーム企業の独占認定、データの収集・使用・管理、消費者の権益保護の法規の整備、監督管理能力を強化し、反独占・反不当競争行為に断固反対せねばならない。
➡インターネット、ビッグデータの分野で新たな独占が形成されているので資本の無秩序な拡張はリスクをもたらす可能性が強いとの国内の批判がある。最近のアリババ社(その金融子会社であるアント社)への当局の規制が強まっているようだ。同社の創業者である馬雲氏は昨年10月末以来、公の場に姿をみせていない。(注:21年1月20日に開催された馬氏が毎年主催する会議にオンラインで登場した。1月27日記)

⑦ 大都市の住宅に於ける突出した問題の解決
「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない」と言う位置づけを堅持し、不動産市場の健全な発展を促進しなければならない。低家賃住宅の税・費用負担を引下げ、賃貸市場の秩序を整備し、市場行為を規範化し、家賃水準に対する合理的なコントロールを進めなければならない。
➡賃貸住宅、とりわけ社会保障的性格を有する長期賃貸住宅を重視。住宅価格の高騰に伴い、家賃も上昇しており、庶民の不満を鎮めるため公的な長期賃貸住宅の供給が急務となっている。

⑧ 炭素排出量のピークアウト、カーボンニュートラルの取り組みの遂行
 CO2排出量を2030年前にピークに到達させ、2060年前にカーボンニュートラルを実現するよう努力する。
➡これら目標に加えて、習近平主席は2030年までにGDPに対するCO2排出量の2005年比65%以上の削減、非化石エネルギーの一次エネルギーに占める割合を25%前後にし、森林直積量を2005年比で60億m3増やし風力・太陽光発電の設備容量を12億KW以上にするとしている。

5.総括 
 この末尾で、新型コロナ肺炎を含め、以下のようになっている。  疫病防御はいささかも手を緩めず、「外では疫病輸入を阻止し、内では疫病再流行を防止する」政策にしっかり取り組み、厳しく防ぎ死守し、大規模な疫病の輸入・再流行が出現しない事を確保しなければならない。元旦(注.2021年は2月12日)・春節の市場供給をしっかり手配し、基本民生を確保し、困窮層の最低ライン保護政策をしっかり行わねばならない。

 終息どころか、全世界で新型コロナウィルスのパンデミックが益々拡大しつつある中で迎えた2021年であるが、果たしてどのような展開になるのであろうか。ウィルスの変異種が次々に生まれ、完全に抑えたと鼻高々の中国でも再び感染者が増え始めている。中国が新興国取り込みのために展開しようとしている自国製ワクチンだが、ブラジルでの治験では効果に大きな疑問が持たれている。米国では民主党政権が発足するが、米国の有力コンサルタントは2021年の10大リスクのNo.1が「米国大統領」としている異例の幕開けである。米中の対立も収束に向かうと予想する向きは少なく、その中で日本はどのようなかじ取りをすべきなのか、迫られる課題は巨大である。今ほど、世界のリーダーの資質が問われる時は無い。

2021年1月13日記