福井アドバイザーの 海外ビジネスコラム

第20回 ミャンマーのクーデター<第二信>

(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター
海外ビジネスアドバイザー 福井 孝敏

 2月1日にミャンマーで発生した同国国軍によるクーデターから約1か月が経過したが、民衆による反クーデターのデモや街頭行動が続いている。
 22日には各地でクーデターに抗議するゼネストが行われた。仏教徒が多いミャンマーでは政変や民主化運動が数字の並びなどにちなんで実行されてきた歴史がある。今回のゼネストも「2021年2月22日」と言う「22222運動」と称して抗議への参加が呼びかけられた。全土での参加者は推計数百万人とされ、クーデター後最大の規模となり、デモ隊側の3人が死亡する事態となった。
 また、国軍に対しては少数民族からも不信感が高まっている。政府との停戦協定に署名している10組織は20日に声明を出し、クーデターに抵抗する「不服従運動」への支持を表明、国軍との政治対話を中断すると発表した。国軍側は少数民族からの支持を得る目的で和平問題に優先的に取り組む姿勢を表明していたが、支持の取り付けに失敗した形となった。
 米国のブリンケン国務長官もツイッターで「民主的に選出された政府の回復を求めるミャンマーの人々に対して、暴力を振るう者に引き続き断固たる行動を取る。私たちはミャンマーの人々を支持している」と投稿した。
 米国は11日に国軍関係者10人と国軍と関係の深い3企業(注)への経済制裁を発動している。(その後、22日に2人の軍人を追加)
(注)この3社は、➀Myanmar Ruby Enterprise、②Myanmar Imperial Jade Co.,Ltd.、③Cancri(Gems and Jewelry)Co.,Ltd.で、ミヤンマー国軍が直接所有するMyanmar Economic Holdings(MEHL)は対象外となっている。この辺から、今回のクーデターの背後にヒスイ(Jade)の密輸を行っている企業の存在があるのでは、との憶測につながっている。なお、MEHLは日本のキリンビールが半数の株式を保有しているMyanmar Breweryの合弁パートナーでキリンはクーデターを受け、この株式を手放す事を決めている。

 ミャンマーが属するASEAN(東南アジア諸国連合)はクーデター発生直後にASEAN議長国であるブルネイがASEAN議長国声明において、今後の状況を緊密に見守り、ミャンマー国民の意志と権益に沿って、対話、和解、そして正常な状態に戻るための働き掛けを行うとした。さらに、本件は民主主義の原則や法の支配、人権保護や基本的自由の尊重などのASEAN憲章の目的・原則を想起させるものだとした上で、ASEAN加盟国の政治的安定は、ASEAN共同体の平和、安定、繁栄の実現のために欠かせないと強調した。
 その後、加盟各国のクーデターの受け止め方が微妙に異なる状況で具体的な行動が打ち出されていないが、ここに来て何らかの行動を起こそうとする動きが表面化している。
 最も積極的なのがインドネシアで、同国はこれまでの民主化の過程で国軍との「共生」を図る事で安定を維持してきたと言う歴史的な経験に基づく自負があると見られている。ルトノ外相がまずASEAN議長国のブルネイのボルキア国王と協議し、閣僚級会合の開催に向けた支持を取り付け、その後シンガポールのバラクリシュナン外相とも会談し、ASEANとして閣僚級会合を開く事をブルネイに求める事で一致した。また、インドネシアのジョコ大統領は5日にマレーシアのムヒディン首相とジャカルタで会談し、その必要性を共有している。
 ただ、ASEAN各国の立ち位置は同じではないのが実情で、例えばタイは現在のプラユット首相が2014年のクーデターで実権を握った経緯があり、他国の内政への干渉に消極的と見られ、カンボジアやラオスの立場も同様のようだ。 

 こうした中、24日に当のミャンマーでクーデター後に外相に就任したマウンルイン外相が突然タイを訪れ、丁度タイに滞在していたインドネシアのルトノ外相とタイのドン外相の3人による会談が行われた。
 会談ではルトノ外相からミャンマーの人々の安全が最優先されるべきと訴え、またASEAN憲章にある原則の尊重が大切と述べた。また拘束されている人への人道的アクセスや訪問も認められるべきと述べた。
 タイのドン外相もミャンマーでの平和と安定、人々の置かれている状況の改善が大切と述べた。
 またタイとインドネシアの外相はASEAN外相会議の開催についても意見交換をしているが、会議後、インドネシアのルトノ外相は開催のカギを握っているのは、ミャンマーと2,400kmの国境を接し、国内に2百万人のミャンマー人がいるタイだとしている。
 ASEANの識者の中では、この時点で何らかの行動を起こさなければASEANの国際的地位の低下を招く、ミャンマーの軍事政権に影響力を行使すべきとか、閣僚会議の開催は全会一致でなくても賛同国のみで先に開催し、時間をかけて広げれば良い。とにかくミャンマーの軍事政権を孤立させない事が重要だ、との指摘もある。

 なお、22日の流血の事態を受け、これまで静観していたEUも経済制裁を準備していると表明した。声明は昨年11月8日のアウンサンスーチー国家顧問の率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝した総選挙結果について「尊重されなければならない」として国軍に権力の放棄を求めた。制裁の内容については「弱い立場にある人々が却って影響を受けてしまう手法は避ける」として軍幹部らに対象を絞る措置となる事を検討しているようだ。一部にはEUがミヤンマーへの特恵関税の停止に踏み切るとの観測もあり、そうなればミヤンマーの主力輸出品である繊維製品が大きな打撃を受ける事になる。

 日本は前回(2月2日)のコラムでも触れた通り、ミヤンマー国軍とも一定の関係を維持してきており(2014年の菅官房長官とミンアウンフライン司令官(現最高指導者)会談、2016年の岸田外相と同司令官の会談等)、今回の政変を受けてどこまで正常化への役割を果たせるのか要注目である。

2021年2月26日 記