福井アドバイザーの 海外ビジネスコラム

第27回 コロナ感染拡大が深刻な東南アジア

(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター
海外ビジネスアドバイザー 福井 孝敏

 「欧米諸国で新形コロナウィルス感染症が猛威を奮っていた昨年から今年初めにかけて、比較的感染拡大を抑え込んでいた東南アジア諸国で現在、急拡大の様相を見せている。これは韓国でも同様で今月に入って感染者の最多を連日更新するなどしている。いずれも感染力がオリジナル株の2倍くらいあると言われる、所謂インド株、「デルタ株」の感染が広まっている事が背景にある。

アジア各国・地域の新型コロナウィルス感染者数、死亡者数、回復者数
(数値出所; 米国ジョンズ・ホプキンス大学「COVID-19 Dashboard」) ⇒ https://coronavirus.jhu.edu/map.html

 県内企業が最も多く(中国を除く)進出するタイでは、バンコクを始め各地でクラスターが発生していて、連日1万人程度の新規感染者(4-5月の倍)と100人近い死者が出ている。政府は12日から14日間の夜間(21:00-04:00)外出禁止等事実上のロックダウン措置を発令した。こうした各種行動規制により、バンコク東南の大工業地帯の工場の操業も大きな影響を受けており、生産が一部停滞している。タイのGDPの輸出依存度は70%超で、最近の中国や欧米での経済回復で輸出も増加傾向にあったが、直近の生産停滞で経済回復への影響が懸念される。またGDPの10%を依存する観光収入も外国人の入国がほぼゼロとなっており、これも経済への影響が避けられない。タイの財界では、21年のGDP成長率が0-1.5%と3月の0.5-2.0%から引き下げている。(20年の成長率はマイナス6.1%)

 インドネシアも感染者の急増で医療崩壊状態になっている。豪州やシンガポールが人工呼吸器等を供与し、日本や米国はワクチンを無償提供する等している。在留日本人が計14名死亡しており、日本政府は緊急に帰国を希望する日本人を輸送するための航空機を準備している。

 マレーシアでも5月以降、感染者が急増し、5/29には一日の死亡者が9,000名を超えた。その後、一旦減少したが、6月末以降再び増加し始め、7/9には 再び死者が9,000名を超えた。これまでの死者累計約6,000名のうち、4月末以降で4,700名と80%に達している。このため、政府は6/1から全面的なロックダウン措置を導入、当初は6/14までとしていたが延長、延長を繰り返し、今は無期限となっている。
 こうした中で、与党を構成するUMNO(統一マレー国民戦線)が政権離脱を表明。ムヒディン首相の辞任を要求した。実際に離脱となれば首相は議会での多数派を失う事となるが、UMNO内には政権残留派も多いと見られ、首相は切り崩し工作で生き残りを図っている。

 ベトナムも5月初めから感染者が増え始め、7月に入ってからは急増し、1日に2000名近くに達する日もあるが累計でも30,000人余り、死者も120人弱と他国に比せば抑制がされている。しかし、特に感染者が急増しているホーチミン市では6/30以降、無期限のロックダウン措置が講じられている。

 心配なのはミヤンマーである。2/1の軍によるクーデター後は自由な報道が規制され、国内では軍部への「不服従運動」が展開されていて、医療従事者もこれに参加している人が多く、検査数等も実態がつかめていない。しかし、感染者が急増しているインドやタイに国境を接しているのでミヤンマーだけ感染者が少ない事はありえないと見られている、実際、国際赤十字・赤新月社連盟は「検査や治療能力が著しく低下している」「人道危機に新たな感染の波が重なり、最悪の事態に直面する可能性がある」と発表している。

 このような諸国に於ける感染者数の急増の背景としてはワクチン接種が進んでいない事がある。下記の図を見れば、アジアで最も進んでいるのは韓国、僅差で日本が続き(以上は30%弱)、次いでマレーシア、インドが20%強、そしてインドネシア、タイが10%強、フィリピン、ベトナムに至っては10%に満たない。各国とも当初、比較的感染を抑制していた油断からか、ワクチンの調達で出遅れた事とデルタ株の感染力の強さがこのような事態を招いてしまった。 経済回復が先行する中国や欧米諸国向けの需要に応える形で経済振興を狙っていたアジア諸国にとっては目算が狂ったであろう。

各国のワクチン接種状況
(出所:Our World in Data https://ourworldindata.org/covid-vaccinations) 

2021年 7月14日 記