福井アドバイザーの 海外ビジネスコラム

第28回 共産党建党100周年を迎えた中国の現在と行く先

(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター
海外ビジネスアドバイザー 福井 孝敏

 2021年7月1日、中国では「中国共産党創立100周年祝賀大会」が開催された。そこに於いて行われた習近平総書記の演説で以下のような事が述べられた。タ株」の感染が広まっている事が背景にある。

1.全党・全国各民族人民の持続的奮闘を経て、我々は第一の100年の奮闘目標を実現し、中華の大地で小康社会を全面的に完成させ、歴史的な絶対的貧困問題を解決し、今意気軒高として近代的社会主義強国の全面完成と言う第二の100年の奮闘目標に向けて邁進している。

2.1840年のアヘン戦争後、中国は徐々に反植民地・半封建社会となり、国家が辱められ、人民が苦しめられ、文明が失われて、中華民族は未曽有の災難に見舞われた。その時から、中華民族の偉大な復興が中国人民と中華民族の最も偉大な夢となった。

3.この100年間、中国共産党は中国人民を団結させ引っ張って、「為に犠牲となりし壯志多くありしが、敢えて日月をして新しき天に換え教(シ)む」(革命のために命を惜しまない勇敢な人々がいるから、敢えて長い年月を頑張って新しい世の中にする、と言う意味。毛沢東の詩七律より)と言う何物をも恐れぬ気概で中華民族の数千年の歴史上最も壮大な叙事詩を書き上げた。この100年間に切り開いた道、創造した偉大な事業、収めた偉大な成果は必ずや中華民族発展の歴史、人類文明発展の歴史に記されるだろう。 

4.新たな征途で我々は必ず党の全面的指導を堅持し、党の指導を絶えず完全にし、「四つの意識」(政治意識、大局意識、核心意識、一致意識)を強め、「四つの自信」(中国の特色ある社会主義の道の自信、理論の自信、制度の自信、文化の自信)を固め、「二つの擁護」(習近平総書記の党中央の核心、全党の核心としての地位を守り、習近平同志を核心とする党中央の権威と集中統一指導を守る)をやり遂げ、「国之大者」(国家に於ける大事なものの意)を銘記し、党の科学的執政、民主的執政、法に基づく執政の水準を絶えず高めて、党が持つ、全体を統括し、各方面を調整する指導・中核機能を十分に発揮させなめればならない。 

5.中華民族の千秋の偉業を志す中国共産党の100年はまさに風華正茂(若さと精力に溢れている意。毛沢東の詩「泌園春・長沙」より)である。過去を振り返り、未来を展望すると中国共産党の強固な指導があり、全国各民族人民の緊密な団結があり、近代的社会主義強国の全面的完成と言う目標は必ず実現され、中華民族の偉大な復興と言う中国の夢も必ずや実現されるであろう。 

 筆者は1980-90年代に中国ビジネスにどっぷり携わったが、当時から中国側パートナーからは上記の2.の事は何回も聞かされた。実際、祝賀大会に於ける習近平総書記の挨拶の中で以下の発言もある。 中華民族は5000年余りの歴史の変遷の中で形成された絢爛たる文明を有し、中国共産党は100年にわたる奮闘・実践と70年余りの執政・国家振興の経験を有しており、我々は人類文明のあらゆる有益な成果を積極的に学習・参照し、あらゆる有益な提案と善意の批判を歓迎するが、「教師面」をした居丈高なお説教は断じて受け入れない。

 この強烈な歴史と文明に関する自信を背景とした中国共産党の指導の絶対性の顕示が今の中国の姿である。
亜細亜大学の後藤康浩教授によれば、「習近平の中国」の本質は以下となる。

「共産党ピューリタリズム」「グローバル覇権の獲得」

1.中国共産党の主体性、主導性を確保するため米国から覇権を奪う。
  ➡「一帯一路」は市場であり、ライフライン、緩衝地帯

2.市場経済・民間経済のこれ以上の膨張は共産党にとってリスク
  ➡「改革・開放」と「社会主義市場経済」の修正
  ➡鄧小平の否定、毛沢東への回帰

3.共産党による管理と統制で高成長を維持し、米国を追い越す
  ➡トランプ&コロナによる米国の混乱で中国は統制路線に自信

4.外資と自由貿易体制は今後も徹底的に利用

 このうち、2.の点は注目を要する。と言うのは、中国の特に2000年代に入ってからの驚異的な経済成長(GDPでは2010年に日本を追い越した)の主因は「社会主義市場経済」の下での「民間企業の発展」であったからである。
旧態依然たる国有企業は「親方五星紅旗」でイノベーション力は無く、世界の発展の趨勢から取り残される一方であったが、深センや北京中関村等で始まる世界のイノベーションの発展に食らいつく民間企業の勃興があったからこそ、中国経済は圧倒的スピードで世界第二の経済大国にまで発展した。謂わば、こうした民間企業こそが中国経済の「改革・開放」路線の申し子であったと言う事が出来る。

 この流れに異変が起こった最初の事案が2020年11月のアリババの子会社で金融を担うアントの株式市場上場(上海、香港)がそのわずか2日前になっての政府の指示で中止された事であった。この重大事件の背景として言われているのが、10月末にアリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏がシンポジウムでの「我々は監督を恐れないが、古い方式の監督を恐れる」「中国にシステミックリスクが無いのは基本的にシステムが存在しないからだ」との発言である。 先に挙げた共産党指導による絶対的国家運営の下では経済が政治の敷居を飛び越え、民間企業を支える企業論理が党による統治を侵す事は不可能である。企業であれ、共産党の手を離れる事は断固として許されないのである。
アントのような民間金融機関が順調に発展して行けば、共産党の金融政策が打撃を蒙り、経済的統治が動揺を来すと当局は考えたのであろう。民間金融機関が影響力を持つに従い、社会主義市場経済のタガが外れてしまいかねないからだ。 共産党政権が将来の金融政策の目玉と考えている「デジタル人民元」の脅威になると考えたとも考えられる。横道に逸れるが、馬雲氏の後ろ盾とされる王岐山国家副主席と習近平国家主席(総書記)との暗闘に巻き込まれたとの見方もある。

 このアント事件の後には、アリババに対する独禁法違反での182億元(約3,000億円)の罰金措置、出前アプリ最大手の美団に対する独禁法違反容疑での捜査開始(いずれも2021年4月)、7月には滴滴出行(配車サービス大手)がニューヨーク市場に株式上場をした数日後に「個人データの収集と使用の両方で重大な違反をした」としてアプリの配信を停止させた。また、中国企業による海外株式市場への上場規制の強化や、はたまた、中国の進学熱の下で発展していた民間学習塾の「非営利組織化」の命令も出して株価の暴落等大混乱を招いている。この突然の命令を受けた学習塾の経営者はTVで「当局の命令なので従うしかない」と呆然と語っていたが、この背景としては年々高まる進学競争の中で教育費の高騰が庶民の家計を直撃して不満の高まりを当局が警戒したものと見られている。また、若年層に広がる「オンラインゲーム」を「精神的アヘン」と断定して圧力を加える構えも見せている。

 このように金融・株式市場への負の影響を重く見たのか、米国JPモルガン社の証券子会社の完全子会社化を認可する等融和的な構えも見せていて、米国金融機関関係者からは「中国市場は投資可能な対象である」等の発言も聞こえるが、実態は中国の子会社から米国人は既に大方本国に帰国していて、現地の経営は本国から現地スタッフに指示を与える形で維持しているとの声もある。

 2020年の国勢調査で出生数が1949年の建国以来の落ち込みを記録する(出生率も1.3)等今後中国は急速な勢いで少子高齢化が進むと見られ、これまでの急速な経済成長を支えて来た要因がこれから大きく変容する事が見込まれており、その推移に注目して行きたい。

2021年 8月23日 記